灰塚ダム付帯工事の一部として建設されることになった羽地橋はダムエリア内で最も長大な橋である。エリア内の水量調整のために田総川に建設される副ダム上流の貯水池上を、県道を渡すのがその目的だが、田総川への貯水池の建設は、周囲の谷(小谷)から田総川に注いでいた渓流を廃水としてしまうリスクを伴っていた。
もはや橋の建設それ自体の変更は不可能である。この橋の上部の欄干、舗道、周辺公園などの設備の機能的連関(および形態)だけを組み立て直し、橋全体がもつ環境的な役割、意味を変換することはできないか。くわえて切断されてしまった生活圏との有機的関連をいかに取り戻すか、がプロジェクトの課題となった。いうまでもなくコンセプトの基本は、かつて地域のコミュニティで生活用水として使われ、暮らしに結びついた大事な水資源であった、小谷の渓流を復活させ再利用すること(橋を渡る人に憩いを与え、緑化のための灌漑用水として用いるなど)、さらにそれを新しい橋に個性を与える主役とすることである。
平面図 模型
◯川の上を川が流れる=新しい水道橋
羽地橋は傾斜橋で、下流から上流にかけて、勾配3%の傾斜があり対岸との高低差は6mある。
この高低差をやや上回る高さ(7.5m)の塔を下流脇の公園に設置し、そこに小谷の小川から引かれた水を集める。集められた水は塔から欄干内のパイプを通って橋を対岸まで190mの坂道を登りきり、ふたたびUターンして舗道に沿った手すりパイプ(水樋)を下って下流の公園に戻り、遊水樋を伝って田総川(なかつくに淵)へ放流される。舗道にそった手すりの中を通る水は、パイプ内に仕掛けられた装置によって、さまざまな音を発し、同時に植物などへの潅水としても使うことができる。炎天下に橋を渡る人々に涼を与え、自然に恵みを与える。手すり(おととい=音の樋)の中から聞こえてくる音は地域の人々の工夫によってとりつけられたオブジェが発する秘密の音である。
水の流れ(=音の樋)は、はるばる橋を登りふたたび戻ってくる過程で、動物の耳のような形をした3つの公園を通過する。公園は「うさぎの耳」「たぬきの耳」「かわうその耳」と名付けられ、公園それぞれに自然の音や気配に耳をすますためのベンチが設置されている。
うさぎの耳
たぬきの耳
かわうその耳