急斜面のヒノキ林に設置された、文人、芸術家たちの仕事部屋、書斎としての自律空間。
この地域には、第二次世界大戦後、植林されたまま(材業の衰えによって)なかば放置されてきた林がある。それを生かし、林業を再生させるとともに、芸術家コロニーを招き入れ活性化させようとするこの試みは、灰塚アースワークの関連プロジェクトである。
急斜面に垂直に生える檜をそのまま柱とし、水平に梁をかけ連結させ、メッシュ状の構造を作り、地上で組み立てたボックス状住居をつりあげ設置する。
法規的には、地上に基礎づけられていないので、建築物ではない。木=生物にひっかかった工作物である(象の背中の上の籠のごとく)。
構造と住居は固定されず、風や地震などの負荷力を解消する(すでに数度の台風の通過を受け、この構造の有効性は、実証済み)。また緊急時、修理時などは、地上に住居を降下させることが可能。
トイレ、台所などのユーティリティボックスが随時、増設され、相互に連結され、樹上の建築群を形成していく。
電力は、近隣を流れる渓流より水力発電で確保される。
House Beyondとは
建築を作るということの可能性は、外部の特定の場所(空間や時間)に依存せずに存在すること。いいかえれば、世界の存在しないところに世界を生み出し、時間と空間のないところに時間と空間を生み出すことにある。
たとえば、ノアの箱船(大地を失って、それ自身、生物すべて、環境すべてを運ぶ大地となった建築)、あるいは信貴山絵巻の飛倉(どこにでも自由に飛んでいく、倉)。
Athanasius Kircher, Noah's Ark
信貴山縁起絵巻 飛倉の巻
House Beyondは、ただのTree Houseではない。木に、斜交いを絡みつけ(縛りつけ)、必死に自らを木に固定し寄生しようとする、あるいは木を殺し(まるで人身御供のように)そのまま大地に打ち込んで杭の代わりにするような、要するに自分勝手なファンタジーを自然と大地に押し付け=支配しようとする、TREE HOUSEなどと呼ばれている代物ではない。
これはいかなる基礎にも頼らず(縛りつけられることもない)、ゆえに、いかなる場所にも出現可能なそれ自身が空間、時間の原器であるところのArk=正しく元型とよばれるべき建築である。
Kazimir Malevich, Arkhitekton