造形作家の岡﨑乾二郎氏(1955~)は、旺盛な作品制作の一方で、文化・芸術全般にまたがる広範な知識をもとに、新たな作品解釈を提示し、固定化した美術史をも大胆に読み直す作業を続けてきました。それらは非常にスリリングであり、ときに私たちの頭を一息に刷新するような強度を持っています。
豊田市美術館は、1995年の開館以来、20年以上にわたる活動を通して、特色あるコレクションを形成してきました。この豊かなコレクションを見つめ直し、その更なる可能性を探る機会として、この度、岡﨑乾二郎氏監修による展覧会を開催いたします。館外より貸出いただいた作品、資料を加えることで当館コレクションのミッシングリンクをつなぎ、両大戦間の美術を中心に抽象芸術の本来の意図を探ることを企図した、近代美術史を大胆に読み直す試みとなります。
専用サイト:http://abstract-art-as-impact.org/
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抽象の力
岡﨑 乾二郎
キュビスム以降の芸術の展開の核心にあったのは唯物論である。
すなわち物質、事物は知覚をとびこえて直接、精神に働きかける。その具体性、直接性こそ抽象芸術が追究してきたものだった。アヴァンギャルド芸術の最大の武器は抽象芸術の持つ、この具体的な力であった。
だが第二次大戦後、こうした抽象芸術の核心は歪曲され忘却される。その原因の一つは(アメリカ抽象表現主義が示したような)抽象を単なる視覚的追究とみなす誤読。もう一つは(岡本太郎が唱えたような)抽象をデザイン的な意匠とみなす偏見。三つめは(具体グループが代表するような)具体という用語の誤用である。これらの謬見が戦前の抽象芸術の展開への正当な理解を阻害してきた。ゆえにまた、この世界動向と正確に連動していた戦前の日本の芸術家たちの活動も無理解に晒されてきたのである。
本展覧会は、いまなお美術界を覆う、こうした蒙昧を打ち破り、抽象芸術が本来、持っていたアヴァンギャルドとしての可能性を検証し直す。坂田一男、岸田劉生、恩地孝四郎、村山知義、吉原治良、長谷川三郎、瑛九などの仕事は、ピカビア、デュシャン、ドゥースブルフ、モランディ、ゾフィー・トイバー=アルプ、ジャン・アルプ、エドワード・ワズワースなどの同時代の世界の美術の中で初めて正確に理解されるはずである。戦後美術史の不分明を晴らし、現在こそ、その力を発揮するはずの抽象芸術の可能性を明らかにする。
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■会 期 :2017年4月22日(土)ー6月11日(日)
■休館日 :月曜日(5月1日は開館)
■開館時間:10:00~17:30(入場は17:00まで)
■主 催 :豊田市美術館
■観覧料 :一般800円(700円)/高大生500円(400円)
*中学生以下無料
*( )内は20名以上の団体料金、
*障がい者手帳をお持ちの方(介添者1名)、
豊田市内在住・在学の高校生、豊田市内在住の75歳以上は無料[要証明]
■企画監修:岡﨑乾二郎(造形作家)
◎美術館HP:http://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/2017/special/okazaki.html