「誰だ。何をしにきた」。苔むした岩の間にさらさら音を立てる谷川の水はいつも冷たく澄んで、そのまま王の心でした。王が王なのは誰も来ないから。来ないかぎり王は王としてミズナラの洞に座り続ける。何千年も生きたろう巨木が立ち並び、その葉の茂みが空を覆う。足元は絨毯でなく茨や葛ら、朽ち葉や枯れ枝。白い薄明りが道を示し王子をここに連れてきた。「あなたへ伝える」、何を伝えるのか。私が口を開いた途端、あなたはもう王ではない。静かだった森がごうと唸り声をあげる。
2016 アクリル、カンヴァス235×201.5×7cm
個人蔵