ライオンであることはたいへん毀れやすい、ということです。おなじ猫の仲間として暗闇で背中からパチパチ火花をだすので危ないとわかります。ひきずった脚のどこが怪我しているのか、薄い煙のようなハンカチを重ねると、茨の刺が一本刺さっていました。「そこが傷口。ほら火をふいた、まるで稲妻みたい」。ちらちら燃えていたのは栃の実ぐらいのまんまるの珠でそれが王者の徴でした。だから王者らしからぬ仕事にも耐えられたのです。焔をあげているように見えましたが、珠はやはり冷たく澄んでいて、透かしてみると小さな沢山の風車が蜂のようにかすかに唸って空中を飛んでいるのです。その夜、ライオンは夢を見ました。高い錐のような山の頂上に片脚で立っていました。「ロバはきっと戻ってくる」そう悟ったライオンは幸せでした。
2017 アクリル、カンヴァス210×340cm
個人蔵